それは正に突 き 落とされるような感覚。


















「そんなに乱 暴 か?」


スコールは眉 を しかめてリノアを見返す。彼の得意のこの表情は、それでも始めて彼女と
会った頃と比べ れば纏う空気が多分に穏やかになった。久しぶりのデートで来たのは旬の
フルーツを使っ たデザートが人気で先日雑誌に紹介されたカフェだ。店内には女性同士で
談笑しているテーブルやただ 穏やかに時を過ごす老夫婦のいるテーブル等があり、人を選
ばない雰囲気の良いそこは早速リノ アのお気に入りとなった。


「乱暴?全 然!!」


リノアは思わ ず 吹き出した。自他共に認める程彼女に甘い彼には、嬉しさを通り越して多
少の申し訳なさを彼女は感じている。


「でもどっち かっていったら・・・空を飛ぶより崖を突き落とされる感じ。」


リノアが見て い るのはつい先ほど立ち寄った本屋で買った雑誌だ。彼女が雑誌を買うのは
珍しい。流行に は敏感な彼女だが、このような雑誌は立ち読みで済ませられるならそうす
るのだとリノア はよくスコールに言っていた。旬のフルーツがあるように旬のファッションが あ
るのだか ら、余裕のある限りそれを楽しみたいと付け足して


「崖・・・。」


しかしリノア が その雑誌を買った理由は旬のファッションをチェックするためでは無く、特集 と
合わせた 占いのためだった。表紙にも大きく紹介されている、曰く「彼の本音いろいろ」とい
うものだ。そしてリノアは占いの結果を出すための質問に目を通しており、そ れはよくあるy
es
なら赤の、noなら青の矢印を辿る形式のものら しい。衝動買いの一種だろうと思えるその
行動だが、リノアの興味を引くものだったらしく彼女は喜々としてページに見入っている。もう
一度質問を繰り返した。


「あなたに与 え られる彼の愛は例えるならどっち?空をふわふわ飛んでいる感じor崖から
突き落とされる 感じ。」

「精神分析を す るには質問が両極端すぎるだろ。崖って・・・。」


リノアはス コー ルらしい言葉に苦笑しながら顔を上げる。


「スコールは 優 しいけど、ふわふわじゃないもん。気のない素振りなのに思いッ切り誘惑
してくれちゃっ てさ。それで私がドキドキしてスコールのことじっと熱い視線で見ててもスコー
ルったら 開口一番、なんだ?何か付いてるか?じゃない。振り回してくれる小悪魔ちゃんめ。
あんまりいじめないで。」


鈍感な態度で 崖 から突き落とすくせに、素早く優しく必死になって彼女を助け出すのも彼
だ。つまりじり じりさせる天才なのだ。しかし愛しの彼女相手でなければじりじりするどころか
イライラムカム カさせてしまうのだから、彼女限定の恋の達人という贅沢な称号を彼は得る。


yes・・・う〜ん、no・・・えぇ〜?」


考えている ことが思わず口に出てしまう分かりすいリノアに、 スコールはこっそり笑う。







「彼は寂しがりや?・・・yes。」


それはお前も同じだろ。少し冷めたコーヒーを飲み、彼は息を細くは いた。大体それで何が分
かると言うのか。下世話な質問だ。リノアは楽しそうに視線を走らせる。



俺の本音?
くだ らない。
そんなもので分析されてたまるか。



「スコール機嫌 悪い?こういうの嫌いだもんね。ごめんね。」


リノアは雑誌 を 閉じ、悪戯っぽくスコールを見上げた。スコールは少し慌てる。


「いや、確かに苦手だが 気を使うなよ。占いは信じるも信じないも人の自由だ。」

「ありがと。 も う結果分かったからいいの。当たって無かったよ。でもこういうのって当たってたら
当たってたで楽しいし、違ってたら違ってたでおもしろいのよね。結局楽しければいいのよ。大
体このリノアちゃんが知らないスコールの本音を雑誌に軽〜く当てられちゃったらショックだもん。」


雑誌の占いよ り は彼女の方が彼の内面に詳しい。それは当然だ。しかし他人の本音がはっき
聞こえる人間 なんているはずもない。



「だって知りたいもの。」

「俺の本音 か?聞けば良いだろ?」

「スコールの 隠 したい本音が、聞きたいの。」


リノアは雑誌 を 本屋のロゴの入った紺色の袋に入れた。そうして頼んだケーキを一口頬張る。


「聞きたい の。」


ケーキを飲み 込 み、幸せそうに頬を緩ませたままの愛らしい表情でもう一度繰り返す。スコール
は深く息 をはいて椅子にもたれかかる。


「好きなこと も嫌なことも知りたいよ。もちろんえっちぃことだって考えてるんでしょ?ああでも、
あの女の子可愛いなとかの本音は知りたくないな。・・・パスだ。だっけ?」


スコール研究家という異名を持つ友人のレクチャーを受けた彼の物まねをしてリノアは悪戯っぽく
笑った。スコールはため息をつき、両手を組んで腹の上に置いた。伸ばした足がリ ノアの足と軽 く
ぶつかる。


「何よー。」

「まあ、俺の 本音を悟 るぐらい思慮深くなるんだな。」

「えぇ、なり ま すよーだ。スコちゃんの嫌いな占いも参考にしながら。」


リノアはぶつ かって来た彼の長い足を軽く蹴る。スコールは足を引くと笑った。


「あ〜、そん な 素直な笑顔のスコール久しぶり。」


リノアの心臓 が 踊る。何でも無さそうな振りをしてはいるが、こんなときだけ彼は鋭いから頬が赤
くなっ たことにきっと気が付いているのだろう。彼の笑顔ひとつで赤くなる自分が恥ずか しいとリノ
アは思う。

言い訳するわ けではないが、スコールは滅多に本気の笑顔を見せ てはくれない。そして彼は客観
的に見ても、女として羨ましくなるような美貌の持ち主だ。


「仕方ない よ・・・。」


希少な彼の笑 顔 に私がときめくのも。
だってほら、向こうの席の女の子達だってさっきからスコールのこ とちらちら見てるもん。
格好良いから?
でもね、この人結構意地悪だし根暗だし本当に少しだけど男だから例に漏れずえっちなとこもある
のよ。
それに私のだからあげない。


リノアはテーブルの上に乗ったスコールの手に自分のを重ねて彼を見上げる。ありったけの想いを
込めて最高のスマイル。届くといいな、と想いながら恥ずかしいから届かないで、なんて本音を込めて。
スコールはまた笑った。


「惚れ直した か?」

「えぇ〜!そ りゃあもう!」


リノアは紅茶の 残りを一気に流し込む。すっかり冷めてしまってはいたが、葉の良い香りが鼻 孔を
擽っ た。本音まで伝わってしまったようだ。


恋している心臓の音は、恐怖と死に直面している時の音と同じだという話を彼 女は思い 出す。
危険を知らせる音だ。
自分が壊れてしまう音だ。






馬鹿。
守るって言った傍から殺 す気?
今度は私も落としちゃうんだから。
それから助けちゃうんだから。
ずっとドキドキしててよ。






「崖から突き落 とされた気分。いっそのこと最後まで落ちきっちゃいたい・・・。そうしたら もうこれ以 上
落ちなくて済むもん。心臓ドキドキしなくていいもん。これ、本音よ。」


テーブルに 突っ 伏してすねた声でリノアが言う。スコールが言った。


「駄目だな。 俺が 黙って見ていると思うのか?」


そういって彼は 彼女を引き上げた。なんでも無いことのように軽く簡単そうに。


「また、落と すく せに・・・。」


こっそり落と さ れた額へのキスにくらくらしながら、彼女は呟く。彼は気付かなかった。






何度でも落と し てよ。
この心臓が止まるまで。









END