神様はいつも君を見てる 〜エピローグ〜
小高い丘の上に小さな墓がある。ガーデンの子供達が思いを込めて作った花輪がかけられた墓だ。
バラムは今春を向かえ、初夏のものよりも小さな花々が咲き乱れている。しかしそれらの淡い色は同じで、風にそよぐそれらがセルフィの小さな足をくすぐっ た。
「天国に行ってください。」
小さな両手を胸の前で組み、頭を垂れた少年が声を出して祈る。
「よくできました。」
セルフィはその少年の頭を撫で、帰ろうと言って手を優しく繋いだ。アーヴァインが、レンタルした車の運転席でのんびり待っているだろう。決して離すまい、 そんな思いを込めてセルフィは少年の小さな手を握る。
この子もいつか、自分達と同じ葛藤を抱くことになるのか。
いつかガーデンという場所が本当の「孤児院」に戻れるよう、二度とこの子のような子供が現れぬよう、いくら時間がかかってもいい。自分達はやらなくてはい けない。血に汚れても戦争を終わらせ、たとえ自分達で果たせずとも戦いの悲しみを忘れぬように引き継いでいかなくてはならない。
「セルフィ!」
丘の向こうからかけてくる少女がひとり。黒い髪、黒い瞳、白い肌の美しい少女だ。
「来てたん。」
セルフィはどうりで朝から見ないと思ったと微笑む。息を切らせてセルフィに追い付いた彼女は、作りたての花輪をセルフィに見せた。
まるで自分の成長を親に見てもらいたい子供のような様子だ。
「ほら!」「わ!上達上達!」
セルフィは本当に驚いた。
つい先日まで萎れた花の束にすぎなかった彼女の作った花輪は見違えるほどに綺麗に出来ていた。
「彼にあげてくるね。」
少女は少年に小さく手を振って微笑むと、小走りに墓に向かう。セルフィは少年と顔を見合わせ、小さく頷いて彼女の後を追った。
黒い髪の少女は小さく礼をすると、そっとその墓標に花輪を捧げた。そっと手を組み、少年と同じように祈る。
「彼が天国に行けます様に」と。
春ならではの強い風が少女のスカートの裾を軽やかに踊らせ、黒く長い髪をその流れに乗せた。
柔らかな日に照らされて光るような白い肩に、そっと薄い桃色のストールがかけられる。少女は振り返らないまま、ありがとうと小さく言った。リノアが生まれてから一年と少し経つ頃だった。バラムは今、春を迎えている。
洞窟内で死んだ研究員にはたった一人の息子がいた。彼の妻は2年前に別の男と失踪し、彼も死んだ今その少年は天涯孤独の身の 上となった。親類もおらず、戦争や紛争が耐えない現在社会では孤児も多い。それに比べて、孤児院も少なければ「良い」孤児院も少なく、結果学園長はガルバ ディア政府に依頼してその子供を引き取ることに決めた。これも何かの縁だろうと、洞窟探査に関わったガーデンの人間も彼を歓迎した。
ふと、少女のワンピースの胸元からから小さな黒い影が飛び出した。そうして、彼女の後ろにいた人間に飛びかかる。
「遅い。」
後ろにいた青年は片手でそれを受け止め、その両の小さな翼をつまんで動きを封じた。じたばたと彼の腕から逃れようと動く。
それは小さな黒い竜だった。
左目の上に大きな傷があり、その瞼は固く閉じられている。彼が手を離すと、飛ぶことよりも暴れることを優先していたそれはそのまま花畑の上に落ちた。ボ テッという音の後に悲しそうな鳴き声。少女は困った顔をして振り返った。
「もぅ、いじめないで!おいでアンジェロ。」
するとその竜はききとしてまた少女の胸に飛込んだ。青年は眉をしかめる。
「そいつ、メスなんだろ?」「うん。そうだよ」
少女はそのままアンジェロと呼ばれた竜を抱き締め、頭を軽く撫でた。セルフィとアーヴァインが先ほどの子供を連れて彼らのところにやって来る。セルフィの 髪は今日も元気が有り余っているうに生き生きと跳ね上がっており、アーヴァインも少年と手を繋いでその後に続く。
「リノアせんせい。アンジェロがSeeDレオンハートにいじめられたの?」
子供が首を傾げて問えば、少女が笑って答える。
「うん。でもアンジェロも悪い子だからメッしなきゃね。」
話を聞いていたのか、アーヴァインとセルフィがまたにやにや笑うので青年は顔を背けた。アンジェロは少年の元へ飛ぶ。そして優しく彼の頬を舐めた。
「アンジェロ、メッ。」
少年が優しく頭をこづくと、アンジェロは小さく鳴いてその手も舐めた。小さな舌がくすぐったくなり、少年は笑う。
リノアという名の少女と、スコールという名の青年はガーデンの医療チームの技術や友人たちの決死の看護で奇跡的に目を覚まし た。リノアの背中には消えない傷が残ったが、彼女が生きていてくれただけで周囲の人間は喜んだ。もちろん、スコールも。彼はリノアよりも二日先に目覚め、 それからは眠らず、何も食べず、ただリノアを見守っていた。守ってやれなかった分をまだ取り戻してはいないと、心に悲しい思いを秘めて。
「帰ろうか〜。」
アーヴァインが彼特有の真伸びした声で呼び掛ける。
(今こうしていられるのも、皆のおかげだな。)
リノアを眩しそうに見つめて、スコールはこっそりと笑みを口許に浮かべる。
サイファーは目覚めたリノアを一度強く抱き締めると、姿を消した。
アンジェロを残して。
きっとまた来てくれる、リノアはそう信じている。そして彼女は少年の父が眠る真新しい墓に向かって微笑むと、あなたの分までこの子を皆で見守ります、そう心の中で誓った。
帰途に着く途中で、スコールがリノアに向かって言う。
「そういえばまだ聞いていなかったが、神様って信じるか?」
リノアはきょとんとした後、頬を赤く染める。スコールの手が彼女の手を優しく握ったからだ。
「ぇ、ぇ、んーと・・・。」「俺は、いると思う」
彼女の答えを待たずに、スコールは立ち止まって空を見上げた。リノアもつられて空を見れば、吸い込まれそうな程青く晴れ渡るバラムの春の空。
「スコール、リアリストなのに。」「そうだな。」
リノアは息を飲むほど美しい空に涙が出そうだった。生まれてから一年と少し。偶然の、きっと「不幸」な出会い。
「羽、出していい?スコールが信じてるなら、きっといるね。神様、見てるよね。・・・見せたい。何か、願い事したいな。」
「ああ。」
スコールは小さく返す。
神様はいてもいなくても良かった。
でもワガママだから、大切な皆の幸せを信じてもいない神様に願ってきた。
吹く風。
なびく髪。
薔薇色の頬。
桃色の唇。
涙に潤む黒い瞳。
きっと神様は君や周りで笑ってくれる人達。時々意地悪で、だけどいつも側にいてくれる。
願い事は叶わなくても願うことを忘れてしまうくらい嬉しくさせる。楽しくさせる。
だけどそれでも叶いそうに無い「奇跡」だけはあなたに願うの。
私はワガママだから。
例えばそれが叶えられなくとも、それでも、きっとあなたがいつも見ていてくれる。
広げた小さな翼
白い羽
THE END