私達は オンナノコ 女の子と噂話と失恋パーティー編

 

 

 

 

 

 

 


リノアは食堂の人気メ ニューであるチーズリゾットの乗ったスプーンの動 きを止める。


「だ・か・ら・ね!マナ=ワトソンがスコールに告白したんだってさ。」


セルフィは人指し指を左右に小さく振り、最後の「さ」でそれをリノアに突 き付けた。リノアは少し驚いたように黒目がちで大きな目を一瞬見開いた後、そのま
 まチーズリゾットを口に入れた。口の中に広がるチーズの香りと味わい、そしてコンソメがベースのスープの美味しさに思わず頬が緩む。そしても ちろん飲み
込 んでから、まだ突き付けられたままのセルフィの指に自分のそれを当ててリノアは言った。


「セルフィ、それって正規の情報ルートで知ったんだよね?」


するとセルフィは心外だとでも言うように眉をしかめ、冗談めかして答え る。


「はんちょとリノア以外に隠し撮りとかはしてないよ〜。これはもうガーデ ン中の噂になってんの。」


リノアは怒ったようにこらとセルフィの頭を軽くこずいた後、苦笑しながら 続ける。女の子同士の話が盛り上がれば盛り上がるほど、会話の内容に反して冷た
く なってしまうのは料理だ。リノアの前にあるチーズリゾットもそれと同じ運命を辿るのだろうか。


「ガーデン中の噂なのに、セルフィにしてはキャッチが遅かったかな?」


セルフィはつまらなさそうにストローの端を噛み、それに答える。


「マナが周りに口止めしてたからだよ。」


セルフィが言うにはマナはガルバディアのある政治家の一人娘で、貴族の出 身らしい。とびきりの美人では無いが、愛くるしい小動物の様な見た目で異性
からの 人気も高い。リノアはやっと二口目のリゾットを咀嚼しながら、ガーデンのホールで友達と雑談していた彼女を思い浮かべた。彼女は魔女討伐隊程で
はないが一 応ガーデンの有名人ではある。


「スコールはちゃんと優しく断ったのかな?」


セルフィはオレンジジュースを飲みながら、リノアを上目使いに見上げる。 リノアがその視線の理由を首を傾げて問うた。


「はんちょからその話を聞いた?」

「ううん。スコールがそ んな話をすると思う?」


リノアから返された質問にセルフィはすぐに「ないな。」と答える。リノア はリゾットを掬い、それを食べるのではなくただ見つめる。


「リノアは焼きもち焼かないの?」


リノアはいたずらな目でセルフィを見て答える。


「すっっっごい焼きもち焼きだよ、私。喜ばしくもスコールは明日の夕方ま で休暇だから今日はもう甘やかしまくってもらうもん。」

「そっかぁ……えへ へ。」


思わず頬を揺るませるセルフィに優しく微笑んで、リノアはやはり冷めてし まったリゾットを軽くかき回した。





「リ ノア!」


仕 事用のファイルを片付け終わり、暇だから中庭の花に水でもやりに行こうかと考えていたリノアに声がかけられた。リノアが振り返ると、SeeD候補生の女
子三人組が笑顔で手を振っている。彼女達はよく駐車場へ続く廊下で雑談をしているが、今日は趣向を変えて保険室へ続く廊下で、らしい。


「聞 いたよ〜。マナちゃんがスコールさんに告白したらしいじゃない!」

「そ うそう!マナちゃんが口止めしたらしいけど、誰か一人が話せば一気に広がるものだよね。」

「マ ナちゃんには可哀想だけどスコールさんはリノアしか目に入ってないもんな。玉砕だね。」


リ ノアは素早い噂の広がりようにマナに心底同情したが、噂話が大好きな彼女達のハイテンションに圧倒されていた。


「可 愛そうだけど、興味あるな〜。」

「そ うそう!だってリノアがガーデンに来てからスコールさんが告白されたのは始めてだもん。」

「指 揮官モテるけど、リノア以外に興味無いことは分かりきってるからね。諦めざるを得ないからね。」

「さ、 そこまでよ。もうすぐ授業だから戻りなさい。」


リ ノアは困った顔で苦笑いしていたが、突如聞こえて来た凛とした張りのある声にその話は止められた。リノアの後ろにいつの間にかやってきていたキステ
ィスは、トゥリープFCのメンバーなら卒倒するほどの美しい微笑みを彼女達に向けて 手を振る。すると彼女達は一斉に自分の腕時計を見て青くなった。


「次 ヤマザキの数学なのに!」

「ねぇ ねぇ!今日何日?まさか14日?」

「今 日は・・・17!?私当たるじゃん!先生ありがと!!リノア、また今度話の続きね!」

「で は、トゥリープ先生さようなら!リノア、バイバイ!」

「急 げー!」


と りあえず授業に遅れて叱られるより、廊下を走って叱られることを選んだ彼女達は足早にその場を去る。嵐が去ったようにリノアは息を吐いて胸をなで下
ろし た。
今度はキスティスが笑う。


「例のお話ね。スコール研究家として私も興味はあるけど、マナが可愛そうだわ。」


リノアは頷くと、キスティスに笑顔で礼を言った。恋人がモテることはもちろん嬉しいが当然不安もある。しかしその相手がスコールともなれば、またいろいろ
 な問題が付随してくるのは明らかだろう。彼の名声、実力に加え彼の恋人であるリノアの存在も大きく影響する。もちろんガーデンの中でリノアが 現代の「魔
女」である と知る者は一握りだが、それ以前に問題があるのだ。リノアもまた、異性からも同性からも人気であることが大きい。


「ガーデンスクウェア、見るの恐いなぁ。」

「見 る必要がなくて見たくないものは見なければいいのよ。」


キスティスが空いている手でリノアの髪を撫で、そのまま手をとって歩き出 す。リノアはキスティスの暖かい手に自分の手が包まれていることが嬉しくて少
しはしゃぎ
ながら、大人しくついていった。キスティスはリ ノアが楽しそうにクスクス 笑うのが何故か嬉しくて、つられて微笑む。その直後現れたセルフィにどちら
に対するかも分からないやきもちを焼かれ、彼女をなだめるのにも手を焼いたけれど。






「た、大変だね……。」

「そうなんですよ。全く、一体誰が喋っちゃったのかな?」


リノアの前には天使の様な美しいブロンドの女の子、噂のマナ=ワトソンが座っている。どうしてこのような状況になったかというと、食堂のテラス席で一息
つ いていたリノアの前に、トレイの上にどっさりとケーキを乗せたマナが「ここいいですか?」と聞いたからだ。


「リノアさんも一緒に食べてくださいよ。」

「マナちゃん、結構食べるね。」

「失恋記念パーティーですから、食べなきゃ気が済みません。」


マナの言葉に、一瞬リノアは絶句する。マナはたっぷり生クリームの乗ったショートケーキをまるごとフォークに突き刺し、そのままかぶりついた。


「かわいーかわいーって周りがいうと、段々自分もその気になってきてこういうことできなくなっちゃうんですよね。」


遠い目をして紅茶を一口すするマナに、リノアは思わず苦笑した。マナはそんなリノアと目が合うと照れくさそうにへへっと笑う。女の子らしい小動物のよ
うな可愛さは、だらしの無いともとれる笑い方とあいまっても健在だ。マナは可愛い。


「私、2週間前にスコールさんに告白したんですよ。」


マナは切り出した。リノアは小さく息を飲み、何を言われるかと身構える。


「何処がいいっていうんですか!って聞きました。」


それはつまりリノアの何処がいいか、マナが理解できかねるという意味だろうか。しかし違った。マナはチョコレートケーキのふんわりとしたホイップクリーム
をフォークで掬うと言ったのだ。


「スコールさんみたいな変人を、本気で好きだなんて物好きは私以外はいないって思ってましたから。私も周りには隠してますが、振られた人の彼女を失恋
記念パーティーに強制参加させるほどの変人です。リノアさんはガーデンの人気者だし、可愛いし、美人だし、優しいし。」

「ちょ、ちょっと、嬉しいけどかなり言いすぎだよ。」

「そんなことありません!……ケーキ食べてくださいよ。おごりですから。」

「は、はい。ではひとつ。」


マナの迫力に負けて、リノアがフルーツタルトに手を伸ばす。そしてマナをちらりと見上げると、大口でかぶりついた。周りの人間達が視線をこちらに向けて
いるのを感じる。噂はガーデン中に広まっているらしいので皆修羅場を期待していたのだろうが、この場合はその期待は裏切られたようだ。リノアの食べっ
ぷりにマナは満足そうに笑う。


「食べた気がしませんよね〜!かぶりつかないと。」

「うん。そうだね!」


何故だかおかしくなり、リノアも笑う。周りに好き勝手言われても、気にならないような振る舞いのマナは見ていてとても気持ちが良かった。


「リノアさんと仲良くなれそうだな、て常々思ってたんです。だってこの類稀なる趣味が一致したんですよ。だからどうしても友達になりたくて、私でも変だと
は思ったんですが思い切ってパーティーに誘っちゃいました。」

「ありがとう。私もマナちゃんと友達になれるなら嬉しいよ。ところで、スコールはな んて答えたの?」


リノアはミルクティーを冷ましながらゆっくりと飲む。甘いタルトの味がさわやかに取り払われていった。


「リノアは俺の何処がいいとは言わない、ですって。」


マナは紅茶に砂糖を加えながら、リノアに向かって微笑む。リノアも微笑み返した後、そういえばと考えてみた。


「あー、私言ったことないかも。」

「いいとこないんですかぁ?」


マナがからかうように笑って今度はチーズケーキにかぶりつく。周囲の目線は段々と逸れていっている様だ。戦いの中で培われたリノアの周囲の反応
を見る力がそう告げる。

ま、別にいいかな。

リノアもショートケーキにかぶりついた。


「そんなことないけど、いいとこが好きとは限らないでしょーよ。」

「あはは、リノアさんも言ってること変かもぉ。でも同感です!」


話は弾んでいるようだったが、リノアは思う。

これって失恋記念パーティーだよね?









END