私達はオンナノコ 女の子と男の子と眼鏡編
「それでマナちゃんと失恋記念パーティーの席で、スコールについて語って盛り上がったの。」
例によってスコールの部屋にいるリノアは、デスクワークを終わらせてベッドに寝転がるスコールに話しかける。先ほどまで彼のかけていた眼鏡はいたずら好
き
なリノアの手の中にある。ノンフレームのそれに、リノアは水彩マジックでイタズラ描きをしようとかまえた。
「そうか。良かったな。」
しかし彼がひょいとそれを奪ったので、リノアは頬を膨らませた。いつまでも子供っぽい彼女にスコールは苦笑する。リノアはそのまま彼の上に乗ると、眼鏡を
奪い返そうと手を伸ばした。しかしスコールはなんなくそれをかわし、ベッドサイドに眼鏡を置くと彼女が身動きできないように腕に閉じ込めた。
「それだけぇ〜?」
「……変わった話ではあるな。」
リノアはその言葉に満足そうに笑う。眼鏡のことはもうすっかり頭の中から追いやられたようだ。もし眼鏡に心があるならさぞかし安心していることだろう。ス
コールはリノアを腕から開放し、話を続けるリノアの声に耳を傾ける。
「おごりでたくさんケーキ食べちゃった。」
「ダイエット中じゃなかったか?」
「女の子には付き合いってものがあるのよ。それがダイエットを超えた友情。……ていうのもあるけど、好きなものはやっぱり食べたいもん。もちろん大好きな
友達となら尚更ね。女の子同士で手を繋いだりするのも私は大好きなの。」
本来なら修羅場を迎えそうな状況であるのに、友達を作るのが得意な彼女はもうすっかりマナと仲良くなったらしい。しかしマナも随分な変わり者のようだ。
シーツに投げ出されたリノアの腕が奇妙なほど綺麗な皺をシーツに作る。ケーキの上にひろげられた生クリームの帯のようだ。
「マナちゃんはね、今まで自分のしたいことたくさん我慢してきたんだって。周りが可愛いって言うもんだから、可愛くいなくちゃいけないような気になって、
ね。」
「そんなものなのか?」
リノアはまた楽しそうに笑うと、今まで自分が履いていた可愛らしいミュールを拾い上げてスコールに見せる。お気に入りらしいミュールを、何故だか恨みのこ
もったような目で見ている。
「これね、実はすごく足が痛くなるの。左足の小指とかもうパンパンになるんだから。」
「だったら履くなよ。」
「だからそこが女の子なの。自分が可愛いためなら、痛いのも苦しいのも結構我慢が利くんだから!可愛い自分のために我慢するの。マナもそうだよ。だけど
本当の自分を消しちゃってまで可愛い自分を創るのはもう楽しくないって!これからはもうちょっとだけ本当の自分を出しちゃうんだって!」
人目を気にせずに自分に正直に、スコールがそれに気付かせてくれたんだって。リノアは小さく付け加えて、スコールにしがみついた。先ほどまでベッドに広が
っ
ていた生クリームの帯は崩れ、今度は二人が寝そべっている狭いベッドの上で引き連れたようなラインを何本も描く。二人を中心にして広がるその輪は結
構見苦しい 。しかしそれには、子供が待ちきれずにやぶいてしまったプレゼントの包みを見るときのような微笑ましさが溢れている。
「スコール、人目を気にしまくってるけどね。マナちゃんもまだまだ甘いなぁ。……あー!今更になってヤキモチ妬いてきた。」
「そのタイミングも女子だから、か?」
「どうかな?一概には言えないけど、女の子は思い出したように不安になったり後悔するときがあるのよ。」
例えばそれは連休明けの平日にちゃんといつもの自分に戻れるの?とか
ベッドに寝転がっていて本当にこんなことしてていいの?とか
今日何気なく言ってしまったあの言葉は失敗だった?とか
今日あの人と別れる前にもう一回目を見て話せたらよかったのに、とか
スコールはリノアの髪を優しく撫でると、付け加える。
「あと、女子は噂話が好きだな。」
「えー、そーよ!女の子は一般的に噂話が好きで、かなり陰険なところもあるの。たいがいの女の子はヤキモチ妬きだしね。」
そんなときは女の子でいることに疲れちゃうときもあるよ。とリノアは苦笑いする。
女の子でいるのは大変だ。
きっと男の子よりも友達と話を合わせなくちゃいけない。
それに結構頻繁に自分の心を騙さなくちゃいけない。
人の嫌な噂話にも、いけないとは思いつつ耳を傾けてしまう。
可愛い自分のためには痛いミュールもパンプスも大好きなカロリーたっぷりのケーキも我慢して、眠たいのに朝からヘアーセットをがんばる。
(しかもそういうのサボっちゃった日に限って好きな人や自分よりもおしゃれな子と町を歩くハメになる。)
大好きなあの人のために、毎日毎日今日の自分を振り返って最高の自分を探さなくちゃいけない。
嫌な自分を見つけて不安になったり後悔したり、ヤキモチも大いに妬く。
でも例外も多々あるから、そんな多様性もまた複雑な女の子だからだけどね。
おしゃれに興味が無くたって女の子は女の子。
恋に興味が無くたって、男の子が苦手だって女の子。
マナは可愛いけれど自分で言うようにちょっと変わってるし。
そこもまた可愛いけれど。
「でもな。」
「うん?」
「ヤキモチ、という点ではとりあえず男も一緒かもな。」
スコールは久々に気持ちのいいくらいの笑顔を浮かべてリノアの顔を覗き込む。思わずリノアは顔を赤らめると、自分の両手でスコールの顔を隠した。
「その綺麗な顔でこっちを見ないでよ。なんだかムカつく。」
「一昨日の昼休みに駐車場で男子に告白されたろ?ガーデンスクウェアに載ってたぞ。」
あと、そうそう!情報収集も欠かせないんだった。改めてこういうのを知っておかないと、自分と同じくらいヤキモチ妬きの彼へのうまい言い訳も考えられな
い。
だけどスコールには結局どんな言い訳も通じないのだから、とリノアは彼を抱きしめる。素直に謝るのが吉だ。
「男の子と2人きりで会ってごめんね。」
「そこまでは載って無かったな。」
こういう失敗も多々ある。でもやっぱり女の子には嫌なところがたくさんあるけど、素敵なところもたくさんあるんだ。
例えば男の子とは違う柔らかい体だとか。これは結構男の子が好きらしいから、とリノアは思い切りスコールを抱きしめる。
ほら、彼が赤い顔だけど喜んでいるのが肩越しに伝わってくる。
「そういえばあのノンフレームの眼鏡な……」
「なーに?」
「お前がずっと前に格好良いって言ってたから買ったんだ。落書きなんかするなよ。」
私達は女の子だからあまり分からないけど
男の子も、まあまあ大変なのね。
END