「いいわね、スコール?残党がいたら一人残らず連れてきて。」
神様はいつも君を見てる 〜プロローグ〜
世界一の軍事力を誇る大国ガルバディアの首都、デリングシティ。その西方に位置する「名も無き王の墓」の内部に今、額に傷を 持つ青年がいた。
一年中蒸し暑いのがこの地方特有の気候だが、やはり晩冬だからか山に掘り込まれた形の洞窟の中は寒々しい。今回、世界有数の傭兵派遣機関「ガーデン」から 派遣された傭兵2人は、最近首都郊外の小さい村ばかりを荒し回っていた盗賊団の残党を捕えようとしていた。政府から依頼された実に払いのいい仕事だ。
諜報部の調査で団のアジトがここだと突き止めたのがおよそ一週間前。「SeeD」というコードネームで呼ばれるガーデンの傭兵が一味を連行したのが昨日 だ。そして今日、新米SeeDのスコールと、彼と同様で新米のゼルはその残党がいないかの調査に来ていた。
しかしここは「墓」とはいうものの奥深い「洞窟」であり、魔物が住むという迷信がこの時代に珍しく信じられていたので詳しい 調査もなされていなかった。
「なんでガルバディアみたいな工業国が迷信なんてもの信じてんだよぉ・・・。やっぱ先輩達みたくここに詳しい盗賊の一人くら い、案内役に連れてきたかったぜ。」
ゼルがどんなに進もうと同じように見える道にうんざりして言う。洞窟内には昨日の突入の際にSeeDが設置した火魔法を応用 して作った灯りが随所に設置されていた。
「・・・先輩にもらった地図を見ている。じき中心部だ。黙って歩け。」
口を開けば愚痴をいうゼルにうんざりしながら、スコールは道を確認する。ここは磁場もっているらしく、迷ったら外に出ること も至難の技だ。スコールは新米といえどガーデン創始依頼の逸材と言われるほどの戦闘能力と頭脳で期待されていた。もちろんサポートとして本部にベテラン SeeDたちが控えているが、あくまで現場にいるのは二人のみだ。ゼルは最初その状況に過度に緊張していたようだったが、期待の新人であり同期のスコール との任務だったせいか今では多少リラックスできているようだ。もちろん一流の訓練を受けてきた身であるので、戦闘が予想される今回の任務ではテンションを 下げすぎないように集中してはいる。
「それにしたって、もう二時間は歩いてんだろ?この山ってそんなに大きかったっけか?」
山に掘り込まれた形の洞窟は、山の大きさの見た目だけで言えば歩き尽したとしか思えない。階段も坂もなく不自然だ。ゼルは身 震いした。
「まさか・・・本当に魔物がいるとか?」
「さあな、GFも魔法も昔は信じられていなかった・・・。いても不思議じゃない。もういいだろう。静かにしろ。」
GF、正式名称でガーディアン・フォースとは契約を交わしたものだけが召喚できる強力な攻撃力や特殊能力を持つ生命体のこと である。その能力の高さのためバトルにおいては何よりも重宝されるが契約者が記憶障害を起こすという恐ろしい副作用から、ガーデン以外の機関での使用は一 般的ではない。しかしプロの傭兵であるSeeDにとって、GFは決して外すことの出来ない装備であり、また戦場を供に生き抜く仲間ともいえるものだった。 そのGFが発見され使用され始めたのは意外にも最近のことであり、およそ120年前と言われている。その当時はおとぎ話を聞くようだったGFという存在は 人々の間では全く信じられていなかった。そして、今では存在だけなら誰でも知っている。守り神だと祭っていた生命体が実はGFだったという話もあるのだ。
何でもそつなくこなすが人付き合いだけは苦手なスコールは、会話をすぐに終らせてまた地図を確認する。十字路を右折し、今度 はT字路を左折した。
そうこうする内に、ついに二人は「名も無き王の墓」の一番奥に位置する「盗賊団のアジト」にたどり着いた。昨日の任務時に盗まれた金品等も回収され、そこ は10メートル四方のガランとした大きな寂しい部屋になっていた。一番奥に「王の墓」だと思われる装飾の金や宝石が根刮ぎはぎ取られた無惨な棺があった。 ゼルは埋葬当時の姿からはかけ離れてしまっただろう薄汚れた棺に近づく。
「これが王の墓か・・・。!?」
その時、二人は微かな殺気を感じ取って素早くその場から飛び退いた。
「気のせいじゃ・・・ないよな?」
そのまましばらく各々の武器を手に警戒していたが、殺気は先ほどの一瞬で消えて今は全く感じられない。周囲に気を配りながら ゆっくりと周りを見渡すと、先ほどは気付かなかったが「王の墓」の上に何かがあるようだ。スコールは警戒を解かずにゆっくりと近付く。
(何だ・・・?あれはどう考えても・・・)
小さな卵
だった。
薄い水色のその卵は静かにそこにあった。
小柄な女性の拳ほどの大きさで、白い精緻な模様が描かれている。しかし暗い洞窟は炎系魔法でもある程度までしか照らせず、白く描かれた模様は周りのごく薄 い水色に解け込んでいる上、スコールが見たことの無い種類の模様で意味も解読できない。スコールは何故かSeeDとしての危険回避の意識を失い、自然と卵 をそっと手に取った。
ゾクッ
止んでいた殺気が先ほどとは比べ物にもならないような鋭さでスコールを打った。
「なんなん・・・だ?」
ゼルもそれを感じ取り、素早くファイティングポーズを取る。相変わらず恐ろしいほど殺気を感じるが、一向に何者かが襲ってく る気配がない。
「い、いるのかもな・・・魔物が。」
殺気を隠そうともしない相手が、この卵に関係しているのは明らかだった。しかし何故、昨日のSeeD達はこれを回収しなかっ たのか。そもそも・・・この部屋に入ってきた時、棺の上にこれはあっただろうか。スコールが頭を冷静に働かせるために一瞬目を強く閉じると、左の手首に少 し重みを感じた。そっと服の袖を捲って、何があったのかを確認する。
「・・・とりあえず、俺達にはこの殺気をどうにかする方法はない。一旦帰還する。」
そっと卵を棺の上に置くと、殺気はまたもや無くなる。ゼルは強張ったままの体の力をとりあえず抜いた。
「それ、回収しないのか?」
そうはいいながらも先ほどの殺気を不気味がるゼルが問うとスコールは言う。
「今回の任務は残党の排除だけだ。殺気の主は残党じゃない。今は関係ない。」
「どうしてそんなこと分かるんだよ?」
ゼルは全く分からないらしく、ファイティングポーズを取ったままスコールを怪訝な目で見つめる。
「・・・これだ。」
説明も面倒だというようにスコールが長い私服の袖を更に捲り上げると、彼の左手首には黒い、卵に描かれたものと同じ模様の痣 が腕輪のように浮き上がっていた。
4時間後、ガーデンに帰還した二人は保険室にいた。医療のスペシャリストであり、ガーデンに住まう者達の良き相談役でもあるドクター・カドワキとスコール は向き合っていた。
「ただの痣としか思えないけど、やっぱ不気味だね・・・魔法課に行ってみたらどうだい?ちょうど保険員が寿退職しちゃって ね、人手不足なんだよ。私が面倒見れるのはゼルだけだね。それにしても情けないネェ。」
ゼルはスコールの腕に浮き上がった痣を見て、その場では真っ青になって「あ、ははは」と乾いた笑いを漏らしただけだった。し かしガーデンに帰ったとたんに盛大に吐き、保険室に担ぎ込まれたと言うわけだ。
「気持ち、悪いじゃないっすかぁ。・・・信じてなかったもんを間の当たりにしてショックなんすよ、ホント。」
「まぁ、あんたみたいな子は逆にデリケートだしね。二人とも明日は休暇だろ?ゆっくりしといで。」
ベッドからうめくような声でゼルが返事をし、スコールはその声に大分呆れながら小さく返事をして立ち上がった。
「あぁそれとね。さっきジャケット脱いでもらったときにこれ、落としたよ。」
ドクター・カドワキが拾い上げた物を見て、ゼルが悲鳴をあげた。
やはりそれは置いてきたはずのあの水色の卵だった。