「うーん・・・。一概には言えないんですけど。スコールさんの手首の痣はこの卵のものと一緒ですし、魔力で繋がっていると考えた方が自然です。」









神様はいつも君を見てる 〜誕生〜










流石に不気味だったのでスコールがガーデンの魔法課の人間に聞けば予想通りの答えが返ってくる。珍しい事例なので休憩に入っていた内勤のSeeD達までが 駆け付けてちょっとした大騒ぎだ。先ほどもいったように人付き合いが苦手で無口なスコールは不機嫌だった。そうそうに片を付けようと結論を促す。



「それで、問題はないんですか?」

「一応この子も調べたんですけどね。中に生体反応があるかないかも分からなかったんです。」


恐る恐る卵を持ち上げてスコールに見せる。やはり美しい水色の卵は手の中でつやつやと光っている。


「卵を孵したらもっといろいろ分かるんでしょうが、今のところはスコールさんの身の安全も保証出来かねます。」



彼はSeeDを引退しても引き続きガーデンで魔法の研究をしている男だ。魔法課の中で知識では群を抜いており、研究委員長である彼が分からないとなると、 このガーデンでは頼れる人物はもういないといって過言ではない。



「スコールはんちょーさ、それ孵してあげたら?」

「そうだよ〜。何にしても着いてきちゃうなんてカワイイじゃない?」


ゼルと同じくスコールの同期であるセルフィとアーヴァインが楽しそうに言う。セルフィにベタ惚れのアーヴァインはいつでもセ ルフィの側を離れず、セルフィもそれを許している。それでも友達以上になれないのは、彼の軟派な軽いノリが災いして彼女が彼を信じきれていないせい、と周 りの人間は語る。彼らはお祭り騒ぎが大好きで、今回もクールなスコールをからかう種が出来ないかとすぐさま話に参加してきた。ちなみにセルフィは以前、 SeeDになるための最終実地試験の際に同じ班で班長であったスコールを今でも「はんちょー」と呼ぶ。彼女は元々あだ名をつけるのが大好きな性分なのだ。



「うーん・・・興味深い件だから、僕も何が産まれるか気にはなるな。」


魔法課伝説研究部の他の研究委員が横からひょっこりと顔を出した。


「魔法エネルギー反応機にもその子を通したんだけど、はねかえされちゃってね。腕の痣は何だか気味悪いけど、こんなに綺麗な 卵だし案外産まれてくるのは魔 物どころか天使だったりしてね。」



彼の冗談にセルフィが歓声を挙げる。


「そうだったらいいなー!私この間本でそういうの読んだよ。」


うっとりした顔で両手を胸の前で組むセルフィにうっとりするアーウ゛ァインが加えて言う。


「そのお話みたいに孵してくれた人の願い事を叶えてくれたりするといいねー。」


結局スコールがそこからガーデンの寮にある自室に帰ったのはその30分以上後で、もし自分だったらどんな願いを叶えるのかと いう彼には興味の持てない話題で延々場が盛り上がった後だった。




















「・・・」


一日のうちに合った様々な出来事にうんざりしながら、スコールはガーデンに宛がわれた彼の私室のキーを解除した。静かな音を 立てて開いたドアから真っ直ぐに窓に向かうと、締め切ってあった窓を少し開けて遮光カーテンを引く。ベッドに座ってふと机の上を見ると、魔法課の事務所に 置いてきたはずの水色の卵が静かにそこにある。


「!?お前な・・・。」


スコールは仕方無しに立ち上がって卵を手に取った。少し開けた窓から痛いほどに冷たい風が細く部屋に入り、ガーデンの配給品 の質素な カーテンを揺らす。その様子を何の気無しに見た後、ベッドにゆっくりと寝転がって部屋の電気に卵をかざした。


(全く・・・一対何なんだよ。これ。)


卵を手に取ればそれはほのかに暖かく感じ、生きているとスコールには思われた。しかしつやつやと光る水色の卵には自然界の中にあるそれのような生命感をあ まり感じない。
本当は、きっともっと不気味なことなのだろうとスコールは思う。しかし魔法課の人間もそうだったが、身の安全が保障できかねる事態にも関わらず、誰もたま ごを傷つけようとさえしていなかった。
なぜか。

それは一重にたまごの「雰囲気」としか説明がつかなかった。生物であろうと、たまごである。自力で動くことが通常 考えられないものに付きまとわれたら気持ち悪いどころの話ではない。 しかしその時感じるような悪寒も不安もそのたまごはあまり感じさせず、何故だろう。小動物に甘えられているような、そんな 気さえする。


「一対何なんだよ。」


そう言っていつもの考えるときの癖で、卵を持ったまま口許に手を持っていく。















僅かだが、確かに、静かに卵が唇に触れた











ボボンッ!!







次の瞬間、スコールの前に広がった白煙はあっという間に部屋中に広がって視界を奪った。確かに至近距離で爆発音がしたのに少しの痛みも感じないことに逆に 困惑しながら、スコールは壁に立てかけてあった自分の得物であるガンブレードという特殊な武器をとっさに構える。卵が爆発の原因であることは分かりきって いたが現の卵は音と供に割れる、というか霧散してしまっていた








(産まれた・・・のか、死んだのか。どっちにしても「何が」かが問題だな。)









1分もしないうちに、煙たくも無ければ目にも染みず、霧の様な不思議な白煙が消えたとき、元々の性分が冷静沈着なスコールでも17年間生きてきた中で最高 に驚いた。それもそのはず、夕日の指し込むスコールの部屋の床には、背中に白い小さな羽を持つ美しい少女が倒れていたのだ。



「な!?……大丈夫か!?」



スコールはとりあえずガンブレードを腰に収めると少女に駆け寄った。右半身を下にして倒れている少女は色が白く、手足は細長く、しかし女性らしい丸みを帯 び、スコールと同じ年頃くらいだった。少したれ目で伏せたまぶたには扇のような長い睫毛、そしてすらりとのびた鼻、顔は小さくどちらかと言えば丸顔だが一 つ一つが愛らしい作りの顔のパーツと合い、文句無しの美少女だ。美しい黒い髪や眉、睫毛から人間ならガルバディア地方の人種だとスコールは思う。もちろん 翼の生えた「人間」は今のところ発見はされていないので、現時点では彼女は人間ではない。


「ぅ・・・?」


スコールの声に黒髪の少女はゆっくりと覚醒した。上質の石炭を割った断面のような深く、それ故光を反射する黒色の瞳がスコー ルを見る。きらきらとした黒い目がスコールを写し、幼さを残す甘い声が尋ねた。











「・・・あなた、誰?」










起き上がったすべらかな白い肩から、さらさらと黒い髪が落ちる。彼女が身に付けているのは白いワンピースで裾は足首まであったが、白い彼女の肌に解け込ん で今にも消えそうに儚かった。





(それはこっちのセリフだ・・・。)





少女は大きな目で不思議そうにこちらを見た後、まだ夢を見ているような目で続けた


「お腹すいたぁ。」

(あのな・・・。)




スコールは柄にもなく内心焦りながら少女を見る。あまりに驚くべき出来事なのが主な理由なのだが、彼にとってはもう一つの胸を騒がす理由が あった。それは自分自身の胸の中だった。今まで色々な女を見てきたし、彼の整った美麗な外見とその才能から言い寄る女も中にはいた。しか
し元来色恋に興味もなく、 なにより人嫌いのスコールは彼女達を優しさの欠片もない言葉で片付けてきた。
スコールは、今目の前にいる少女を何故か直視できないという奇妙な自分に戸惑う。何にも興味が無い彼の心を動かすものは日々の戦闘くらい
しかなかったが、 スコールは素直にその少女が美しいと感じていた。そしてそんな自分が信じられなかった。

馬鹿げている。付き合ってられないな。

気のせいだ、そう自分に言い聞かせて、スコールは訳の分からない感情を押し込めた。



「俺はスコール。・・・バラムガーデンのSeeD。あんたは?」




少女は黒く大きな目で彼をじっと見た。



(なんだかこの人、すごく寂しそう。)




 そんなことを思いながら口を開く。


「私の名前はリノア。私は・・・?」



リノアと名乗った少女は言葉を続けようとして愕然とする。












(名前以外に私を表すもの・・・。)












それが何一つ思い当たらなかった。

思い出そうとすればするほど、体が冷えるような恐怖が這上がって来る。しかしこんな時すがるような人の存在も自分には思い出 せない。

孤独を写し続けるサファイアのような目をした男を、恐怖に震えても満天の星空を写すオニキスのような目をした少女が見つめる。





「私・・・何なの?思い出せない。・・・怖い。」









3 〜ガー デン〜