「信じられませんが、彼女はあの卵から産まれたとしか考えられません。」
神様はいつも君を見てる 〜ガーデン〜
とりあえずスコールはリノアを魔法課に連れていった。自分一人では片付かない問題であることは明らかで、ガーデンの中では周りに影響を与えうる勝手な個人 行動は厳しく禁止されている。リノアが何者かをはっきりさせることが先決だとスコールは判断した。
授業の真っ最中の時間帯だったせいか、スコールは途中運良く誰にも会わずに彼女に対する余計な詮索も受けずに済んだ。ガーデ ンでは派遣する傭兵を幼い頃から特殊訓練によって教育するという「学校」という役割ももち、SeeDは20歳以下の男女に限るという規則によって幼い子供 達もガーデンに住まわっている。彼らの多くは捨て子や戦災孤児だ 。スコールも戦災孤児だった。
「うーん・・・羽以外は人間、だね。とりあえず勝手なこと出来ないから、学園長の支持を仰いでください。」
厳しい顔をした魔法課の研究員にそう言われて、とりあえずスコールが学園長とのアポを取る間にリノアは一人で待たねばな らなかった。目を離すことも現在は危険なので、とりあえずは魔法課の室内の椅子に座って待つ。大きな騒ぎにならないように、目立たないように非番の SeeDが監視する。
リノアはまだ不安に震えながら小さな椅子に座っていた。魔法課の窓には女性職員が買ってきたと思われる小さな花が可愛らしい 花瓶にいけられている。リノアはそれを見て、少し不安が和らぐのを感じた。
「ねぇ、君誰?見ない顔だけど。」
「え?」
突然話しかけてきた青年に、花を見た時のままの笑顔で聞き返す。青年はリノアの可愛らしさに一瞬顔を赤らめて絶句したが、気 を取り直してまた話す。
「突然話しかけて悪かったね。・・・あのさ、そのジャケットってスコールのだよね。もしかして君、あいつの彼女なの?」
万が一誰かに見付かった時のため、羽が隠せるようにスコールがリノアに着せていた彼のファー付きのジャケットを青年は指差 す。リノアはふわりと笑って答えた。
「これはスコールさんのジャケットだけど、私は彼女じゃないですよ。」
「へぇ、そうなの!俺はレナードっていうんだけど、君の名前聞いてもいいかな?」
彼女じゃない、その言葉に彼は心底嬉しそうに笑って続ける。
初めはレナードは不安そうに椅子に座っているリノアを見て心配で声を掛けた。しかし彼女の可愛らしさに思わぬ胸の暖かさを覚 えて思わず笑顔になる。
「私は・・・リノアです。宜しくね」
リノアの表情にまた一瞬不安の影がよぎるが、レナードはそれに気が付かない。
「それでリノア、さんはここで何してるの?ガーデン生ではないみたいだけど。」
リノアは魔法課に行くまでの途中でスコールから教えてもらった万が一の自分の仮の素性を思い出す。周りを混乱させないためだ とスコールが言い、リノアは大人しく従った。
「あの、私ガーデンの新しい保険員なんです。ここまで来る間にモンスターに襲われてしまって、それでスコールさんに助けても らったんです。」
まだ不思議な卵の話もガーデン内にはそれほど広まっておらず、それでなくともリノアの存在は周りの混乱を招くだろう。スコー ルはドクターカドワキが前委員の寿退社で人手不足になった保険室に外部からの保険員を招いたという話を聞き、今回はそれを利用した。その話はガーデンの人 事掲示板にも張り出されいたので、ガーデン生もSeeDも知っているはずだ 。
「こんなにカワイイ子だとは思わなかったな・・・」
「え?」
「あ、ううん。何でもないよ。」
レナードももちろんその話は人づてだが聞いていた。思わず呟かれた彼の本音にも、リノアは気付かずに少しぼうっとしている。
「それにしても、スコールが人助けなんてするんだな。」
「彼、無愛想だけど優しい人だね。あ、ですね。」
リノアの本来の性格だろうか。つい気軽に話し始めてしまい、赤面しつつ言葉遣いを直す彼女はなんだか見た目よりも幼く見え る。
「日頃からあいつがそうだったら俺も驚かないけどさ。スコールは君が思っているように無愛想で、でもそうだね・・・あいつを優しいなんて評するのは世界で 今のところリノアさんだけだよ。」
リノアはレナードの言葉を聞いて胸が痛んだ。
(あの人の目はあんなに寂しそうだったのに。周りはそれに気が付いていないのかな。なんか・・・悲しい、な。)
うつ向いて先ほどとはまた違った沈んだ色が目に浮かぶ。
「スコールの話はとりあえず置いておこう?・・・あのさ、ガーデン初めてだろ?案内す」
ここからが本番だとレナードが意気込んだとき、突然背後から声が掛けられた
「レナード、何してんの?」
レナードはリノアに視線を集中していたために気が付かなかったが、そこにはセルフィとアーヴァイン、そしてSeeDであり SeeDの教官としてもガーデンで働いているキスティスがいた。彼女は類稀なる美貌と頭脳でガーデン内にファンクラブが出来るほどの人気者だが、決まった 恋人がいないので周りから不思議がられている。驚いて声も出ないレナードに、もう一度セルフィが言う。
「何黙ってんのー?やましいことでもしてたのー?」
(こいつ、分かってて言ってんな・・・)
レナードは諦めて溜め息を吐く。
「何言ってんだよ。この子は新しい保険員だ。」
「へぇ、それで早速ガーデン案内を申し出た訳ね。優しいねー。」
セルフィがにやにやしてレナードを見る。心なしか彼女特有の大きく外にはねたカールの髪型も生き生きしているように見える。 レナードはからかい続けるセルフィを軽く睨んだ 。
「それはいいけれどね、レナード。あなたまだ昨日の任務の報告書を提出してないわよ。」
「げ!?エドに頼んだのに。」
呆れたようにレナードに注意したキスティスは肩をすくめて続ける。エドとはレナードの同期のSeeDだったが、すぐに一線を退いて研究員としてガーデンに 籍を置いている。
「面白いものが見付かったそうよ。あれじゃしばらく報告書は無理ね。」
報告書の提出の遅れは昇進に響く罰則が与えられる。良く言えば天才肌、悪く言えば単なる魔法研究オタクで、研究さえできれば満足なエドはともかく、レナー ドは青くなる。言うまでもないが、「面白いもの」とはもちろんたまごのことだ 。
「じゃあ今すぐ始めますんで!・・・えっとリノア、また話そうね。」
去り際まで名残惜しそうなレナードにアーヴァインが苦笑する。
「この子は僕らにまかせてー。」
振り返り様、軽く手を振ってレナードは駆け出した。開け放した窓から校庭で遊ぶ年少クラスの生徒たちのはしゃぐ声が聞えてく る。先ほどまで強く吹いてた風は今は弱まって柔らかく頬を撫でていた 。冷たい風も、火照った頬を冷やすのには最適だった。
「始めましてー。私セルフィ。」
「僕は彼女の恋人のアーヴァイン。」
「悲しい嘘は止めなさい。私はキスティス。みんなSeeD仲間よ。」
「キスティスひどいよー。」
レナードが去った後に残されたリノアは先ほどの三人から自己紹介されていた。三人ともリノアが新しい保険員であることに疑い は無いのか気さくに話しかける。
「あ、私はリノアです。えっと・・・新しい保険員です」
皆いい人そうで嘘を付くことが苦しくなるリノアだが、スコールのジャケットを握り締めて言い切る。
「スコールも隅に置けないねー。新しい保険員さんにもう手ぇだすなんて。」
心底楽しそうに話すセルフィにリノアが慌てて言う。
「あの!このジャケットはそういうことじゃないの!スコールさんは私を助けてくれただけなの!」
先ほどレナードにした説明を痛む胸に堪えながらもう一度繰り返す。
(嘘ついてごめんなさい・・・。)
何よりも自分が何者かも分からないのに、勝手なことはできない。スコールの言う通りにした方がいいと、リノアは信じていた。 今日始めて会った人だったが、彼の目は自分と同じ孤独に脅えていたし、震える自分に掛けられたジャケットは彼の確かな体温で暖かかった。ただそれだけのこ とで彼を信頼仕切っている自分を不思議に思いながら、それでいいと自分の中の何かが言っているような気がした 。
「何してるんだ。」
後ろから掛けられた声にリノアは飛び上がる。学園長の秘書と話し終えたスコールがリノアを迎えに来たのだ 。スコールが静かに監視のSeeDに視線を向ければ、この人数のSeeDがいれば大丈夫と見たのかさりげなく手を振って去って行く。
「あぁ、スコール。別にリノアさんと少し話していただけよ。」
キスティスが笑顔で返し、セルフィが嬉々として質問し始める。
「ねぇねぇ、スコール。リノアちゃんを何処で助けたのー?」
「リナール海岸だ。リノア、学園長のところに行くぞ。」
よどみなく答えてリノアに視線を向ける。考え事に沈んでいた彼女はスコールの突然の登場に驚いていたが、すぐに返事を返す。
「あ、はい!よろしくお願いします。」
それを聞いたアーヴァインが気に入りのテガロンハットを脱いで髪を直しながら言う。
「僕らも報告書提出しにいくついでだから事務室まで一緒に行ってもいいかい?」
「アーヴィンいいこと言うー!ね、リノアちゃんそうしよ?スコールもいいでしょ?私、リノアちゃんの話聞きたいなー。」
セルフィの手がリノアの手を包む。しかしスコールは視線を動かさずに首を振る。
「いや、学園長は今日多忙なんだ。急がなければ迷惑になるだろう。今は話している暇がない。」
「えー・・・。」
途端に頬を膨らませたセルフィだが、キスティスが横から取りなす。
「セルフィ、リノアさんの話はまた今度聞けるわよ。」
セルフィはまだ不服そうだったがリノアにもう一度笑い掛ける。
「あのねー、私明日から二日間休暇なの。保険室行くからその時話そうね。」
リノアは手をぎゅっと握り締められて胸が詰まるほど嬉しかった。できればまた、この人たちと話したい。そのためには怖いけ ど、行かなくてはならない。
嘘をついていることが苦しかったが、リノアはできる限りの笑顔で言う。
「うん!あのね、「リノア」でいいよ。皆もそう呼んでね。」