「彼女はまだ目を覚ましていません。」
神様はいつも君を見てる 〜異変〜
スコールは学園長室で、学園長であるシドと向き合っていた。シドは穏やかな表情で目を閉じて何かを考えていたが、小さく息を はいてスコールに言う。
「彼女は身を呈してその子をかばったのですね。」
「状況としてはそうでした。彼女は自分の名前しか覚えていないと主張し、それ以外の素性は分かりません。それと、ドクターカ ドワキからの報告が伝わっていると思いますが、これがその痣です。」
スコールは腕にできた黒い痣を学園長に見せた。シドはそれを見ると、現状を理解したかのように頷く。
「分かりました。彼女自信の記憶は自分の名前以外一切無し。翼以外の見た目は人間。名も無き王の墓にあった卵から産まれたと しか今のところ考えられず、そして君の腕にはその卵に描かれた紋様と同じ痣・・・。」
スコールは静かに頷くと、学園長の指示を待つ。
ガーデン内では学園長の決定は絶対である。一流の傭兵を育てるという、諸外国には驚異ともなりうる特殊な学園が世界に存在しうるのも学園長の裁量故だ。今 でこそ見た目は穏やかな初老の男性だが、その昔は大国の工作員や傭兵などの並々ならぬ経歴を経ており、かなりの腕で名も知れていたらしい。
今も健在であるその威厳はともかくとして、いい意味でも悪い意味でも狡猾な「狸オヤジ」と呼ばれることもあることはきっと彼は知っているだろう。
彼は一線を退いてからは孤児院を彼の妻と開き、彼が自身の技術を彼の「子供達」に教えていくうちにガーデンという一流用兵派 遣機関にまでその孤児院は成長 したのだった。ガーデンで育てられるSeeD(種)。そしてそのSeeDの功績、つまり依頼料からまた新しいSeeDが作られる。SeeDとしてガーデン と契約できるのは20歳までだ。大人になったら好きなように各々の花を咲かせる元・SeeD達。
物々しい内容の学園だが、園内はいつも笑顔と活気に満ちている。学園長夫妻のこころがそこに生きているのだ。彼らの暖かな気 持ちは学園内に深く浸透し、SeeDや候補生たちからは本当の父母のように慕われている。また彼は美貌の細君に滅法弱く、そんなところもまた生徒たちに慕 われる所以でもあった。
「スコール君、君に彼女のことをお願いできますか?」
予想できていたとはいえ、スコールは返事をすぐには出来なかった。いくら彼女を目覚めさせたのが自分だとは言え、訳の分から ないことに巻き込まれるのはごめんだった。返事を渋っているスコールの微妙な表情に思わずシドは噴出す。もちろんスコールは不機嫌そうに眉をしかめて反応 した。
「いえいえ、何も四六時中一緒にいろということではありませんよ。君には期待の新人としてしっかり仕事をしてもらわないといけませんしね。彼女のことが はっきり知れるまで、ガーデン内で保護してあげましょう。君にはたまに彼女と話をして彼女の生活状況を報告してください。」
一息ついて元々穏やかな顔により穏やかな笑顔を浮かべて続ける。
「彼女は私の大切な子供達の一人を守ってもらいましたから・・・万が一にもこれから彼女が彼等を傷付けることのないように願 います。」
西日に染まる空が夜を向かえる時間だった。スコールはシドを真っ直ぐ見据えて敬礼をする。それが学園長のした決断だ。スコールに逆 らう権限は全く無い。すると静かなと学園長室の通信機のランプが赤く点滅して静かに着信を告げた。学園長がそれに出て二言三言話した後、リノアの目が覚め たから早速迎えに行くようにとスコールに告げた。
ドクターカドワキはスコールが保険室にやって来ると腕組みをして待っていた。
「リノアの怪我はたいしたこと無かったよ。翼も、怪我は無いようだ。不安がっているから行ってあんたの可能な限りの優しい言 葉でもかけてあげなさい。」
スコールはその言葉にどう返事をしたらいいものか戸惑ったが小さく「努力します。」と呟いた。リノアはベッドの上に座って自 分自身を抱き締めるように体を丸めていた。スコールに気付くと涙の浮かんだ赤い目で彼を見上げる。
「私あの子を助けれた?」
「ああ、よくやった。」
「私、どうやったの?」
「その背中の羽が光ったと思ったら大きくなったんだ。それであの子を抱き上げて・・・飛んだ。」
見たままに説明するスコールから目を反らさずにリノアは涙を流した。
「・・・私、一体何なの?」
スコールは黒く大きな美しい瞳から流れる涙を見て、自分が何をしているのかも分からなくなった。冷静になったのは、リノアが 自分の腕の中で大きく息を付いた時だった。
(何・・・やってんだ、俺。)
「・・・ありがとう。なんだかとっても安心するよ」
自分で自分の行動に驚き、とっさに腕を解こうとしたスコールだったがリノアのその言葉を聞いて出来なくなる。リノアの暖かな体温が伝わってきてスコールは 動揺した。つい三時間ほど前に会ったばかりの、しかも翼を持つ少女を抱き締めているという自分の状況にスコールは赤くなった。リノアのこわばった体の力が 抜けたのを感じてそっと離す。
「スコールさんて、やっぱり優しいね」
まだ赤い目でリノアは優しく笑う。その顔にまた胸の中をざわめかせながら、スコールは赤い顔をリノアから反らして言った。
「あんたの身柄はしばらくここ、ガーデンで預かることになった。生活は保証されている。学園長の決定だ。」
万が一にも周りに危害を加えようとも思うな、という言葉はスコールには言えなかった。リノアが、またポロポロとまた涙を溢し 始めたからだ。
「ありがとう・・・私怖かったの、ひっく、私だけ、みんなと違ってて、う・・・ふぇ・・・何も知らないのに、ほおりだされたら、一人になっちゃった ら・・・て、ぅく。ガクエンチョーセンセイ、ありがとう。」
肩を震わせるリノアをスコールはまた彼女を抱き締めたい気持になったが、すぐに理解出来ないその気持ちを押さえてうつ向くリノアの正面に立つ。リノアは泣 きながら自分の目の前に立つ彼を見上げて、誰に言うともなく呟いた。
「私、弱虫だね。一人じゃ駄目なんだって思っちゃう。」
「まだいろいろ考えなくてもいい。ドクターカドワキも学園長もセルフィ達もあんたに対して嫌な感情なんて持たなかっただろう。不安なのも当たり前だ が・・・そんなに不安なら俺の側にいたらいい。」
リノアはまだ涙を流し続けていたがスコールの言葉を聞いて微笑む。彼は自分で柄でも無い言葉だと思ったが、リノアはそんな自 分に優しく笑った。
不安の涙に揺れてもなお優しく美しい瞳で。
「本当にありがとう。私これからがんばるので、宜しくお願いします。」
三ヶ月後、リノアはすっかりガーデンに馴染んでいた。
もともと頭は悪くないのか、その場しのぎの言い訳だった保険員の仕事もすぐに覚えた。リノアが話すことを許したセルフィ、アーウ゛ァイン、キスティスには 分かっているだけのリノアの素性を話し、スコールが任務中は彼女を頼んでいた。初めは誰も彼女の素性を信じなかったが、疑いようもない彼女の翼と、スコー ルの冗談の言えない性格でもってあっという間に納得していた。元々のリノアの性格なのか、誰にでも気さくな彼女はすぐに彼らとも打ち解けた。リノアは誰と でもうまくやっていたが、特にセルフィとは気が合うらしく、よく二人で遊んでいるようだ。セルフィはリノアのことを「天使」だといって大はしゃぎしてい た。
その間に分かった特記すべきことが二つ。
まず、リノアの羽はリノアの意思で消す、というか畳むことが出来るのが分かった。彼女が消そうと思えばちょうど鳥が羽を休めるようにそれは畳まれ、肌に解 けこむように消える。 これでリノアはセルフィに買ってきてもらった可愛い服に穴を開けなくて済むし、厚手のカーディガンを羽織らなくてもいいようになった。
しかしリノアに当てられたガーデンのSeeD用女子寮の一室で生活するときと、セルフィの部屋にいるときは彼女は羽を出している。羽を出している方がやは りリノアにとっては開放的であるし、リノアの羽を大変気に入ったセルフィのたっての希望だったためだ。
そしてもう一つ。
「リノア、また痩せたか?」
スコールはガーデンの食堂でリノア、セルフィ、キスティスそしてゼルと食事をとっていた。アーヴァインは任務でドールに出て いる。以前は一人で食事を済ま せるか最悪サプリメントのときもあったが、「リノアの動向の出来る限りの監視、そして報告」という任務のためにこうしてリノアと彼女と特に仲の良いメン バーと食事をとることも当たり前になりつつあった。
「う、うん・・・。」
SeeDとして任務を怠るわけにはいかない。そのプライド故か、スコールはリノアの微妙な変化によく気が付いた 。3日間任務でガーデンを空けていたスコールはリノアの細かったシルエットがまた一段と細くなっているのを見る。
「なんでだろうな。リノアはちゃんと飯食ってるぜ。」
リノアの横で掻き込むようにランチを食べていたゼルが、一旦飲み込んでから不思議そうに言う。ゼルは最初こそ例の卵から産ま れたといわれたリノアに少し脅 えていたが、今では彼女の良き理解者の一人だ。スコールが頼まなくてもリノアの様子を見てくれる。
しかしリノアを取り巻く人達は彼女を「見張る」のでは無く、意識せず友達して彼女と一緒に居ることを望んでいる。彼女本来の 明るく天津欄万な部分が、自ず と彼女の周りに人を集めているようだった 。
「うちの部屋に来てお菓子も食べてるのに〜・・・。リノアだけなんで痩せれるの・・・。」
急激な体重の変化は体が資本であるSeeDにとっては致命的だ。年頃の女子なら誰でもダイエットを考えるだろうが、SeeD である以上必要以上に痩せてい ても減給の対象となることさえある 。
「セルフィ、基本体重越えそうなの?」
キスティスがパスタを食べ終って、片付け易いようにトレーの上に食器をまとめながら問う 。
「失礼なー!ちょっと太っただけやもん!」
そうは言いながらもセルフィはノンカロリーのドレッシングをかけたサラダをつついている。しかし元々細かったリノアが最近少 し不健康に見えるほど痩せたの を見て、スコールは眉根を寄せた 。
「何か無理してるのか?」
「ううん。みんな優しいから最近は夜も良く寝られるの。ごめんねスコール、心配かけて。」
少しだるそうなリノアは、それでもきちんと出された食事を平らげた。スコールもまだガーデンに慣れ切れていないためのストレ スと判断し、まずは様子を見ることにした。