神様はいつも君を見てる 〜天使〜









あの洞窟探査の際に、やっと現場にたどり着いたセルフィは背骨が凍るほどの恐怖を感じた。人を殺し、自分を殺してきた SeeDである彼女を始めて芯から冷 やした恐怖だ。ガーデンの仲間達が数人と、見たことの無いローブを着た男がそこには倒れていた。
訓練された傭兵であるはずの彼女の頭は一瞬真っ白になる。しかし狼狽する自身を叱咤し、今するべきことを考えた。合理性など投げ出して、今自分が仲間のた めにすべきことだ。


キスティスもゼルもスコールもアーヴァインもいるのに何故自分はここで倒れ、傷ついていないのか。
皆が危機であった中、自分はのうのうと……

セルフィはまずアーヴァインの姿を確認すると、近付いて脈をとる。脈と呼吸が確認されると脱力して倒れ込みそうになるが、そ れでも順に皆の様子を確認し始める。他のみなは軽傷だったがレナードが右腕と肋骨を折っており、すぐさま応急処置を行う。
そして振り返り、震える足で倒れているスコールと、その腕の中にいるリノアに駆け寄った。


「リノア!スコール!」


呼んでももちろん返事は返らず、セルフィはとりあえずリノアの様子を見ようとスコールの腕を解こうと手をかける。しかしリノアの体からその腕を浮かせよう とセルフィが試みると、腕がそれに逆らって強くリノアを抱きしめた。パリパリと、不自然に固まったリノアの髪が音をたてる。


「ぅん……。うん!うん!分かってるよぉ!みんなみんなリノアが大好きなんだよ!!だから、ほら、独り占めしないでリノアを見せてよぅ……。」


リノアの黒いワンピースの色は彼女の血が乾いた色だと気付き、セルフィは泣きながらスコールの腕に爪をたてる。血に濡れて固まってしまったリノアの綺麗な 髪に、何にぶつけていいか分からない怒りや悔しさが沸く。
不意にスコールの腕から力が抜け、セルフィは嗚咽を我慢しながらリノアをそっと移動させる。すると背中からズルリと音がし、痛々しくも無残に折れた翼が目 に入った。セルフィは息を飲む。その翼の色は紛れも無い黒色だった。


「何が、あったの?私にも教えてよ。」


体を動かした反動からかリノアの口から一筋赤い血が流れ出し、頬を伝う。か細くも聞こえてくるのは彼女の息の音だった。弱弱しいそれにまた涙をにじませな がら、ひたすら手を動かして止血を試みる。焼け石に水であることは分かっていたが、何もしないでなどいられない。

生きて。教えて。リノアのことを。

セルフィは端末に手をかけ、大至急ガーデンに応援を要請した。





ガーデンの研究員はサイファーの翼と、リノアの背中に残ったそれであったものを興味深く見つめた。竜にも似た硬い骨格で作ら れたそれは、何故か人の不安を煽る。


「これは……悪魔っていうものなのか?」

「まさか、リノアさんが?」


虫の息のリノアに呼吸器がつけられ、リノアとスコールはすぐに集中治療室に入る。実際、この二人が今一番重症だった。スコールは レナードと違い、外傷自体は少ないもののひどい衰弱状態だった。それでも気を失いながら、リノアを守ろうとした彼の姿を早くリノアに伝えたいとセルフィは 思う。
ガーデンの医療チームは一国の医療団に引けをとらない技術者ぞろいだ。その点では安心だが、それでも歯が立たなかったらと逆に不安でもある。セルフィはガ ラスで冷たく区切られた部屋に横たわるリノアとスコールを見つめた。そっと肩に乗せられた手に、彼女は驚いて振り向く。
セルフィの横にはいつの間にかアーヴァインが静かに立っていた。彼女は何も言わずにただ強くアーヴァインに抱きつく。大きな絆創膏を頬に貼っているアー ヴァインも、それをなんなく受け止めた。


「セフィ。」

「アーヴィン。うち、あの男に話を気聞きたいんや。」


セルフィが指差した先にいるのは、ベッドに横たわるサイファーだ。防護シールドに囲まれて眠る彼は、洞窟の中にいたときとは比べ物にならないほどの小さな 翼を背中に携えて眠っていた。防護シールドは、彼「を」守るものではなく彼「から」守るための装備だ。


ほどなくしてサイファーは目覚めた。そして自分の翼を確認し、自嘲する。起き上がったサイファーに気が付いた研究員がすぐにSeeDを呼ぶ。もちろん事情 を知っているアーヴァイン、キスティス、ゼルそしてセルフィだった。サイファーは続々と彼を取り囲んだ面子を一通り見ると、詰まらなさそうに鼻を鳴らして もう一度寝転んだ。


「リノアを助けるために、自分の翼を削ったのね。」


キスティスの声がサイファーに届く。彼は寝返りをうとうとして翼が邪魔になったのか、リノアと同じように翼を畳んだ。そして低く返す。


「そうだと言ったら何なんだ?リノアはまだ安心できねぇ状態なんだろうが。」


その言葉にアーヴァインが頷く。セルフィがその言葉に胸を痛め、小さくうつむいた。


「お前だってさ、俺達の気持ちとか分からんでもねぇんだろ?」

「あぁ?誰に口きいてやがるんだ。チキン野郎。」


折角口を開いたかと思えばサイファーに一笑されたゼルは赤い顔で拳を震わせていたが、その空気に早速セルフィは終止符を打つ。


「聞いた話だけど、魅了の力は全て翼に宿るんでしょ?でも、翼が折れても皆はリノアのことを想うのやめなかったんだよ。」


ゼルがセルフィの言葉に拳の力を抜き、頷く。他のメンバーも静かにそれに続いた。


「勝手に作られた嘘の気持ちじゃない。リノアが俺達にくれた何かを大切に想う本当の気持ちだ。
だから頼む。リノアの兄貴として、リノアの心を裏切るような真似はしないでくれ。出来ればあんたにも、リノアとスコールの出来るだけ傍にいて見守ってやっ て欲しいんだ。このシールドを解いても、決して周りを傷つけたりはしないでくれ。……リノアを慕っている子供達が、ここにはたくさんいるんだ。」


サイファーは聞いているのかいないのか、もう一度寝返りをうった。そして誰も次の言葉が繋げずに黙っていると、彼は起き上がる。そして右手を挙げると軽く 振る。防護シールドがそれに合わせて解けるように消えた。
少し離れた位置にいた看護スタッフ達が、彼のもつ魔力のすさまじさを表すその芸当に思わずおびえる。しかし周りのメンバーは動じずに、ただ彼の次の言葉を 待っていた。嫌々そうに彼は口を開く。


「それで、色気づいた兄ちゃん……スコールだったか?それと俺の妹はちんたら何処で寝てやがんだよ。」






レナードはただ一人、ベッドに寝転びながら黙々と考えていた。あの悪魔の放ったグラビジャに骨をへし折られ、今は回復魔法と手術で粗方治療したものの様子 見のために安静にしていなければならない。自分が気を失ってから、ガーデンで目覚めるまでに何があったのかは全く分からない。だが、夢の中で見た血まみれ の皆の姿が目に焼きついて離れなかった。何よりあの悪魔が放った光に飲まれたリノアは大丈夫なのだろうか。
先ほどやって来たアーヴァインが、自分には知る権利があるといって説明していった内容は驚くべきものだった。
リノアは悪魔だ。人の生気を吸って成長する悪魔。
典型的なそれじゃあないかと何故か笑いがこみ上げる。リノアに対する狂おしいまでの気持ちは、目覚めてみると何故か消えていた。あれほど彼女を欲しいと 願っていた心は何処へいってしまったのか。まるで無かったことのようにリノアへの気持ちは愛情から、ただ単なる親愛の情に変わっていた。アーヴァインの説 明の中に「魅了の翼」の話があり、レナードは彼に気付かれないような小さな苦笑を漏らした。
なんだ。結局俺は嘘の気持ちに騙されてたってわけか。
リノアが栄養失調で昏睡状態になりそして目覚めた後、夕焼けの中でスコールはあえてレナードに気配を気付かせた。今思えばあれは自分に対する不必要な牽制 だったのかと思う。
あいつもまだまだ子供だな。そう思って寝返りを打つと思ったよりも傷が痛んだが、こみ上げてくる笑いは抑えようも無かった。


「きっと二人とも生き残るさ。あのクソガキをからかう理由が出来たんだ。生き残って貰わなきゃあこのネタがもったいねぇ。」


レナードは目を瞑り、声に出してつぶやく。


「神様ー、もしいるんならここにいる悪魔を助けてくれ。あぁ、ついでにそのカレシもだ。
そしたら、あんたがあの子を悪魔として作った大失敗も大目に見てやるからよ。ったく、どうして天使と悪魔を間違うかね。ああ、きっと双方さほどかわらねぇ んだろな。それで任務終了予定時間は……」


レナードは軽くシーツを握りこむ。


「俺が次に目覚めるまでだ。」








17 〜エピローグ〜