さよなら、星座 一つ目










「夏祭り?」


セルフィは勢いよく頷く。その余りの勢いにキスティスとリノアは顔を見合わせて唖然とした


「だからさ、ガーデンで縁日やって花火してフォークダンスして〜。」


次々と出てくるセルフィの企画に、キスティスが慌ててストップをかける。


「ちょ、待って待って!その企画運営は誰がやるのよ?」

「もちろん、皆だよ!」


当然の様に行ってのけるセルフィに、今度はリノアが苦笑する。


「セルフィ〜。みんなでやったとしても、秋祭りになっちゃうよ?第一司令官殿が許可してくれるかなぁ。」


セルフィはラザニアをつついていた手を止めてにんまりとリノアを見やる。キスティスはセルフィの考えに見当がついて、困ったように額に手を当てた
。外はねヘアーの元気なお姫様はキスティスに向かって「言って言って!」とでもいうように激しく頷いた。


「キスティス?セルフィ?」

「リノア、あなたから頼んでほしいんですって。」


セルフィはまた頷く。リノアはさっと顔色を変えてブンブンと首を振った。


「無理だよ!私だってお仕事忙しい時だし、第一スコールに怒られるのは私だよ!」


セルフィは両手を合わせて頭を下げた。そして上目使いでリノアを見上げる。


「リノア〜、お願い。」


アーヴァインにやれば一発で成功する「お願い」に、リノアは困って頭を抱える。リノアにだって保険員としての仕事がある上、今は「セントラ緑地化計画」 というキャンペーンを主催しており、正直にいって祭に打ち込む時間の捻出が難しい。キャンペーンの募金は目標金額までまだ遠く、このままでは長期戦になっ てしまう様な危うい状態なのだ。そしてその間にもセントラの砂漠化は進んでしまう。


「だってだって私もお祭りしたいけど、そんな暇ないもん。募金集めないといけないんだもん。」


最近リノアはあちこちの町をボランティア団体とまわっている。今出来うる限りの努力もなかなか報われていない現状にリノアは心底悩んでいた。


「ね、だから夏祭で募金を募ればいいんだよ!会場だけは一般にも解放するつもりだから人が一杯来るしさ、余計に入ってる財布の紐も緩むよ!!
緑を増やそう、て思い立つ人増えるよ!」


リノアは顔をあげた。キスティスは珍しく筋の通った説得力のあるセルフィの言葉に驚く。セルフィの好奇心は確かに彼女自身を向上させているようだ。勝負が 見えたキスティスは、頭の中でガーデン全体の予定を考え始める


「……あんまり、大きなことできないよ?」

「いーよいーよ!!その分一個一個、人が呼べる中身の濃い企画考えるから!」

「もし駄目でも、怒らない?」

「駄目で元々だもーん!ただぜぇったい、私よりリノアの方が成功率が高いから頼んで欲しいだけだしね!」


キスティスはやるなら今日から32日後の三日間だと決め、スコールの端末に素早くメールを送信する。詳しい話は今晩、リノアに聞いて一言沿えて。







「何を言うかと思えば。」

「駄目?」


その晩、ガーデン合同会議にシド学園長の護衛として同行していたスコールが帰ってきた。あまり物が無い彼の部屋で、リノアは所在なさげにそわそわして立っ ている。スコールはリノアの様子に気が付くと、とりあえずその話は忘れて声をかけた


「リノア。」


広げられた両腕に喜々として飛込んで来たリノアを抱き締めて、スコールはやっと一息つく。


「駄目?」


熱い腕に抱かれてうっとりしたリノアが耳元で囁く。スコールは更に深く彼女を抱き込みながら、低く囁き返す。


「駄目だ。これ以上(セルフィのせいで)面倒を増やされてはたまらない。」


するとリノアは突然スコールの腕からうまく逃げ出し、ドアの前に来ると振り返って微笑んだ。スコールはその可憐な微笑みに鼓動を早めながら、何故逃げられ たか分からないと表情で問う


「だよね。私も無理だとは思ったんだけどね。ごめんね、スコール。」


スコールは静かに首を横に振ると、リノアにそっと近付いてまた抱き締め直した。リノアが甘い溜め息をついたのが分かってたまらない気持ちになりながら、彼 女にそっと口付ける。徐々に深くなる口付けに久しぶりの甘い夜を柄にもなく期待したスコールは、了解を取ろうと一旦唇を離した。


「リノア。」

「ん・・・ぁ。スコール、今何時?」


キスの余韻で甘い声を出すリノアが、鍛え上げられたはずのスコールの精神を強く揺さぶる。しかし何故今、時間を問うのだろうか。スコールはデスクの上のデ ジタル時計で
時間を確認する。


「まだ2000時だ。」


言外にまだ夜は長いという意味を込めながら、スコールはそっとリノアの耳に口付け始めた。リノアはその感覚に少し体を震わせると、自分からスコールに唇を 押し当てるだけの軽いキスをする。


「ごめんね。私、仕事があるの。もう行くね。」


その言葉に内心かなりのダメージを受けながら、スールは意にも解さない風にリノアを抱きしめて離さない。


「スコール、ごめんね。」

「分かってるんだったら酷過ぎるぞ。」


頭を軽く振って朦朧としてきた感覚を振り払いながら、リノアはそれでも抵抗する。スコールはリノアの首筋にキスを繰り返していたが、どうも照れ隠しではな く彼女が本当に逃げたがっているのを感じて口付けを中断した。それでも腰に回した腕は動かない。


「こんな時間まで珍しいな。明日やればいいじゃないか。」


ガーデンの仕事は任務に出ているSeeDや、夜勤の者を除いてだいたいが1900時には私室へ帰る。その後自分の判断で、残ってしまった書類などをこなす などの残業をするのだ。珍しくも残業の無いスコールは、彼らしくもなく彼女をそそのかす。リノアは困った顔をして、両手でスコールの顔を優しく 包んだ。


「うん・・・。セントラ緑地化計画の募金ボランティアの予定が結構ハードなの。目標金額まではまだ遠いからがんばらなきゃ。夜のうちにパンフレットのデザ インを決めておきたいの。ごめんね。」


最後のごめんねはいらないとばかりに、スコールがリノアの肩にそっと頭を押し付ける。


「お祭りが出来ないのは仕方が無いもの。中枢部にこれ以上ゴタゴタを持ち込めないもんね。だから、あと一ヶ月くらいそういうの……我慢、してね?」

「祭りが、何か関係あるのか?」


一ヶ月と言う悪夢のような言葉は聞かなかったことにして、とりあえず気になった言葉の内容をスコールは問う。部屋の空調が小さく音を立てた。フィルターの クリーニング をしなければいけない、とスコールは頭の片隅に思う。これから暑い夏も大分涼しくなったが、まだ彼の出番は多そうだ。


「えぇっとね……セルフィが、夏祭りが出来るならその場を利用して募金を集めたらって言ってくれたの。確かに調べてみたらお祭り会場では皆お財布の紐 が緩んじゃうみたいだし、楽しければこの幸福を皆にも〜!て勢い付くみたいだから。私どうしても、みんなの第二の故郷であるセントラを緑でいっぱいにした いの。なによりね、魔女戦争の傷跡を形だけでも癒したいの。」

「・・・。」


黙りこくったスコールに、リノアは少し嫌な汗をかく。捕らぬ狸の皮算用な話に呆れられてしまったのかとリノアが下を向けば、スコールはその頭を優しく撫で て小さくため息を付いた。


「なるほどな。・・・そういうことなら、一応本部に掛け合うだけはしてみよう。本部の連中もお前の活動に注目しているしな。」

「ほ、本当に!?うわ〜、ありがとー!」


リノアは顔を上げて嬉しそうに微笑むと、もう一度スコールの頬に口付けた。スコールは彼女に対する自分の甘さに少々自分で呆れる。

その後リノアはすぐに部屋に帰ったが、とりあえず一ヶ月と言う禁欲期間がうやむやになったとスコールは安堵の息をつく。そし て決してそれだけのために本部に掛け合うのではないと口元を引き締め、自分の端末を立ち上げた。キスティスからの メールが小さな着信音と供に届く。

彼女の仕事の速さに小さく苦笑して、スコールは本部に提出する「学園祭開催案」の書類にその日付を打ち込んだ。








二つ目